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房一はいかにもそれがやり切れない、と云つた風に吐き出すやうに云つた。つゞけて、
「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」
相手はしばらく黙つていた。だが、場所が高いのと、柵の中にいるためか、落ちついて答へた。
と、加藤巡査はくり返した。
思はず時間がたつてしまつた。房一は腰を上げた。前脚の上に顎をのせて長々と寝そべつていた犬は急に起き上つて身ぶるひした。徳次は、房一の往診の時間を大分遅らせたのにやつと気づいた。
道平が口をうごかせるまでには随分手まどつた。
例の伯父はもう大分前から房一の気を引いてみてはいたのだが、遠縁にあたる退職官吏の娘で盛子といふのを房一の妻として撰んで待ち設けていた。
だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。
「あの訴訟はどうなつたのかね」
冬近い冴えた日ざしが午過ひるすぎの河原町の長い、だが人気のない通り一杯に溢れていた。一体みんな何をしているんだらう、まさか軒並みに夜逃げしたわけでもあるまいのに、と呟つぶやきたくなるほど人の子一人いなかつた。そして、冴えているがしだいに温ぬくもりの増して来る日は、何だかのうのうと、つまり誰もいないので日そのものが路一杯にひろがつて日向ひなたぼつこをしているみたいであつた。
「はあ」
「あん」
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