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「誰かと思つたよ」
「いや、鳴つた。出張所の鐘がたしかに鳴つていた」
「さやうでござりますか」
「相沢さんも見えないな」
練吉は小学校時分のことを思ひ出したのかふいにをかしさうに笑ひ声を立てた。
と、練吉は房一の方をふりむいた。
「それとも、あれかね。やつぱり日露戦争のときみたいに、船で吉賀の先の浜へ上つてそれからやつて来るんかね」
いきなり忙せはしなく立上ると庫裡へ走つて行つて、間も無く茶器を揃へた盆を自分で持ち運んで来た。長い胴を折り曲げるやうな危つかしい調子で房一の前に置くと、
「うん」
どういふ加減からか、それを云ふ時、相沢はぐつと又相手の顔をのぞきこんだ。それは何となくもつたい振つた、重々しい様子だつた。
「ねえ」
しかし家族たちはヌルすぎるといって、入浴しなかった。そこで温泉加熱の装置を施したが、薪をたき、釜の中をグルグルまいたパイプに水道を通し、湯となって湯槽へ流れこむ仕掛けで、入浴している方は温泉気分であるが、外では薪をたいているのだ。温泉場で釜の火をたくとは味気ない話だ。
彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、
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