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    小谷は疳高い声で云つた。

    ふいに冷気が盛子の咽喉もとから胸の中へしみこんだ。その時、夢の中でよくつかめないながらも何か急に閃ひらめき過ぎる考へのやうに、これが結婚といふものか、これが仕合せといふものか、といふ思ひがどこからともなくやつて来た。しかもそれは考へた瞬間にさつと身をひるがへして去り、だが印象だけは強くのこる、あの微妙な閃きだつた。

    「いや、さういふことは人によつてはあるんだよ」

    「それで、何かね。ドイツ兵は徒歩てくで通るんかね」

    「えゝ、このたびこちらへ戻りまして、仲通りに開業しました高間房一ですが、つきましては一寸御挨拶に――」

    「あれらしいのよ」

    正文はそれきり黙つた。だが、練吉の妻はまだそこに片手をついたまゝ、何か答へを待つやうに老医師の方を向いていた。その眼には何か訴へるやうな非難するやうな色が見えた。正文はふと気づいた。

    「その首はどんな顔をしていた」と、友達のひとりが訊いた。

    「よし、それでは預つとかう」

    「何にしても、えらいこつてしたなあ」

    「いや」と、喜作は相変らずきつぱりと、煩うるさがりもせず答へた。

    「あのね、何ですよ――」

    「どれ一つ診ませうかな。――ふうむ、これあどうしたのかね、ハッパでやられたのか」

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