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    房一は慌てて、診察にかゝつた。その後で彼は云つた。

    他に通る人とてはない、この広濶な坂の一本路で、二人はいやでも顔を見合はさずにはいられなかつた。近づいて来る自転車の車体には房一の往診用の黒革の鞄と同じ格好のものがとりつけられていた。房一には相手が誰かといふ見当が今は疑ひなくついていた。恐らく、先方にも房一が判つたにちがひない。

    「うむ」

    房一は苦笑した。

    聞えないといふしるしに、房一は手を振つて見せた。それが盛子にも解りにくいらしく、しばらくためらひ気味に立つていたが、やがて河原へ下る段を降りはじめた。

    「うむ、わしか」

    「梨地から水神淵へ降りる路ができたからね、そこへ出れば、帰りはずつと楽だ」

    「ねえ、高間さん。どうもこの追鮎は背中に掛り傷があるんで元気がないですよ」

    すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、

    と、いきなり云つた。

    「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」

    「今晩、寄せてもらつてもえゝですか」

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