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「どうぞよろしくお願ひします」
徳次も笑顔になつていた。だが、それは甚だ不器用なもので、絶えず紅らんだり力んだりしながら、眩しげに房一を見たかと思ふと、又当惑したやうな顔になるのであつた。
小谷は房一に話しかけた。
「はあ――ふむ、うちへもかね」
男は語尾に力を入れて、房一の眼の中をのぞきこんだ。
口を切つたものの房一は頭の中でとまどつていた。あんなに考へていた言葉が今急にどこかへ消えてしまひ、何を云ひ出したのか後をどう云つたものか判らなくなつてしまひさうに感じた。彼はかすかに汗ばみ、そのどちらかと云へば醜いむくれ上つた眉肉や厚い唇が力味を帯び紅ばんで来た。
「坑には入つてみたんかね。あすこはもう何年も入つた人がないちふことだが」
練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。
「さうかよ。おれは又、河原町を通るんだとばつかり思つた」
「ほんとうに火事があつたのかい」
「あの、さきほど往診に出かけましたさうで」
「はあ、どうも」
「さうか。うちの方では山車だしを引いて出るさうだ。それから、みんな紋付に羽織袴といふことだの」
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