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    房一は苦笑した。

    徳次は何かしら話に困つていた。で、彼は真面目な熱心な目つきで犬を眺めた。ところが、この犬まで普通のものとはちがふやうに思はれた。それは確かに「医者の犬」だつた。短い白毛の生えそろつた地はちつとも汚れていなかつた、茶斑の所は艶があつて上等の織物の模様みたいであつた。そして、全体に清潔でゆつたりしていた。

    傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。

    「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」

    房一はその玄関土間に足を踏み入れて、

    「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」

    「どういふことでせうね、まあ!」

    家賃はいくらでもいいと云うから、こッちで勝手にきめて持たせてやったら、多すぎる、と云って受けとったそうだが、東京の相場の四分の一ぐらいの家賃かも知れない。伊東は家賃がやすい。

    「おーい。渡つてもいゝかね」

    云はずと知れたことだ、といふやうに徳次はそのきよろりとした眼を上げて小莫迦こばかにした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つているので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女らしく見えた。

    男はじろじろと房一を見ていた。

    「どこの訴訟だ。なに鍵屋、うん、相沢か」

    「あいつも、君んとこと同じで、子供ができたらしいよ」

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