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「何でもいゝから早くしてくれ。路をまちがへて大廻りしちやつたんだ」
「はあ、それは――」
「ほう、往診かね」
練吉は路の傾斜のために自然とずり下りかけた自転車を引き上げようとして身体を動かした。そのはずみに、彼の横顔が房一のすぐ鼻先きにぐつと近づいた。練吉の頬はきれいに剃刀かみそりがあてられ、もみ上げから下の青味を帯びつるつるした皮膚にはこまかい汗がにじみ出ていた。そのとき房一は思ひがけなく練吉の匂ひを、髪や香油のそれではなく、何か練吉その人の匂ひを嗅いだ。
「おう、これか」
房一はふりかへつた。
読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。
膿盆だの鋏、脱脂綿の袋などがまだ散らかつたまゝになつているのを片づけはじめた。
答へながら、彼は紅くなつていた。
房一は熱心に愛想よく椅子をすゝめた。
房一が声をかけて回転椅子を押しやると、
「あ、いゝ、いゝ。なんでもありやしない。今すぐ行かう」
すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、
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