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    「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」

    広い家の中では盛子一人だつた。もうとつくに羽織袴も居間に出して置いたし、履物も足袋も揃へた。帰りさへすればすぐにも出かけられるのだ。だが、足音も聞えはしない。盛子はさつきから何度も玄関に出てみたり、それから裏口から外の小路に出て河原の方をすかし見たりした。

    「おい」と盛子を呼ぶ声がした。

    と、小谷が云つた。

    「わたしはね、こいつは割れさうだなと思つたもんでね」と、笏で自分のはいている木沓を指して、

    と、腰をたゝいてみせた。そこにはまだ一足、紙衣の下からはみ出すやうに、ぶら下つていた。

    房一は苦が笑ひをした。

    「ふむ、さうすると――」

    「おい、今高間君が来ていたんだよ」

    と、大声で訊いた。

    「まあ、のみなさい」

    「今日は士曜日で、半休だからね」

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