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    と、云つた。

    築堤へ登る段の所で、長い竿を持ち扱ひにくがつて立停つた房一の背後から、盛子はふいに呼んだ。

    と、云つた。

    「何者かつて云ふが、そもそもこゝで半鐘をたたいたから集つて来たんだぜ」

    「わたし、あれらしいのよ」

    「一昨年の水で流れちやつたからそのまゝになつてるね――ずつと下にはあるが、さあ、そこへ廻ると半路はんみち以上ちがふかな」

    「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」

    さう云ひながらぽんと軽く下腹をたゝいた盛子の巧みな、しなのある手つきが目に浮かんだ。それは、そこだけ切つてとつたやうな鮮かさで残つていた。

    だが、その間にも土手の押問答はつゞけられた。

    鬼倉は一瞬、相手を地着きのごろか何かと思つたらしい、一種の殺気をひらめかした。

    彼の妻の茂子は昨日実家へ帰つたばかりで、この家にはいないのである。

    「どうぞ」

    「うん、ドイツ兵の捕虜だ」

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