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と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。
「いやあ、全く」
「まあ、生れ故郷ですから」
「この人はちっと眠むがってるでな……」
「連れっ子をして行ったです。その子供がまたチブスになって、……」
「水はこんなにきれいでたつぷりしているだらう。鯉だつて鮒だつて、鯰なまずも、ハヤも、鰻うなぎ、アカハラ、それに鮎は名物だらう。こんなに沢山魚のいる河が他にありますかい」
房一はふと自分に返つて訊いた。
「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」
八月も末だつた。十日あまり思ひがけない涼しさがつゞいたので、このまゝ九月に入るのかと思はれたが、暑さは又ぶり返して、がまんがならないほどだつた。
「おぢいさん、そんなに立つてばかりいないで腰をかけなさいよ」
徳次は一種くさめをする前のやうな、煙けむたげな表情になりながらわき見をしたり、房一を眺めたり、どぎまぎして答へた。
徳次は身体中からこみ上げて来る悦よろこばしさのためにさうなつたかの如く、思ひ切り伸び上るやうにして答へた。だが、それも向ふにはよく聞きとれなかつたらしい。房一は川向ふで手をふつた。下手の方を指さした。徳次には判らなかつた。房一は又自転車にのつた。
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