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「へーえ」
「徳さん。追鮎は君のといつしよに活かしといてもらはうか――どつこいしよ」
「いゝよ、君。帰りたまへ、その方がいゝんだから」
大した川でもないのにこんな風に所々でいろんな名があるのは、もとより必要があつて生じたのであらうが、一面に於てはそれぞれの水域に住む人達の生活がどんなに川と密接に結びついているものかを語り、同時に、吾々が自分の子供に思ひ思ひの愛称をつけるやうに、それぞれの呼び方の中に彼等の川に対する愛情を示していると考へられる。で若し誰か川好きな男、たとへば徳次などに向つてこの川をつまらぬとでも云はうものなら大変である。
「誰かと思つたよ」
「いや、人目がなきあそれどころぢや済まんでせう」
練吉はさつきから一人で喋つていた。
座敷へ案内されて、まず自分の居どころが決まると、携帯の荷物をかたづけて、型のごとくに入浴する。そこで一息ついた後、宿の女中にむかって両隣の客はどんな人々であるかを訊きく。病人であるか、女づれであるか、子供がいるかを詮議した上で、両隣へ一応の挨拶にゆく。
「それあ、いかん。こんなに多くはいらんよ」
と、下の男は睨み上げた。
「よし。今行く」
男は眼を閉ぢたまゝだつた。
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