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    「――へえ、まだお帰りぢやないのかね」

    「どういふことでせうね、まあ!」

    庄谷はあの冷笑するやうな白眼で、物好に訊きたがる人に答へた。

    「やっぱり半之丞の子だったですな。瓜うり二つと言っても好よかったですから。」

    房一は苦笑した。

    「さあ。どうぞ、どうぞ」

    「あなたの追鮎は元気らしいなあ」

    「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」

    それは、やつぱり何となく「役所」臭かつた。

    喜作は、

    房一が入つて来るのを見たとき、練吉の顔には意外だといふ表情が浮かんだ。彼は房一の眼を迎へようとして一層高く頭を持上げたが、房一は気づかなかつたので、やがて、練吉はわざわざ座を立つて近づいて来た。

    八月末の思ひがけない冷気の後で又暑さがぶり返し、それは永くつゞいて、もうがまんがならないと云ふ頃に一寸色目をつかつた風に凌しのぎ易くなつたが、それも一日か二日で又もやぶり返し、今度は前ほどではないにしても緩漫に、のろのろと、いつまでも同じやうな暑さの日がつゞいて、九月に入り、九月の半ば過ぎてもまだちつとも初秋らしい気配は見えなかつた。あの夏も頂点を過ぎたのだと思はせたやうな草木の黒つぽさも何かの間違ひ恐らく人間の希望的観測といふやつだつたのだらう、その黒い沈んだ色さへ不機嫌さうにいよいよ黒つぽく見えた。

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