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「何にしても、えらいこつてしたなあ」
「あ、さうでしたな。一つ診ていたゞきませう」
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
その外から見れば屋根と築地塀だけのやうな家の前で、三人の男が立つてしきりと話していた。
二人はなほ専門的なことを二三話し合つた。それから、どちらからともなく自転車に乗つた。ペタルに足をかけるときに、突然、練吉は心に浮かんだことを押へかねて、叫んだ。
その「含有量」といふ言葉は富田が昨日聞き覚えたばかりのものだつた。
「ね、君」
と、敬遠するとも小莫迦にするとも見える頭の下げ方をして、さつさと行つてしまふのであつた。
と、誰かが大声で叫んだ。
「さやうで御座りますか。お忙しいところを御苦労さまで」
と、ゆつくりはじめた。
「それがね、どうも本妻と妾を二人いつしよだといふ話だが、――なにしろ荒いのでね、二人ともぐうの音も出ないで温和おとなしくしとるらしい。――うん、さうだ。こないだ店へ買物に来た在ざいの者が話して行つたが、その家の前を通るとね、どうも女の泣声らしいものが聞える。それもただの泣き声ぢやない、ヒイヒイいふ、まあ恐いもの見たさでそつとのぞきながら通ると、多分妾の方があんまり痛められるんで逃げ出さうとでもしたらしい、それで片足土間に降りて片手を畳の上についたところを小柄こづかみたいなもので、何のことはない手の甲からズカツと畳まで刺しつけて動けんやうにした。だもんで、女の方はどうにもならんのだね、そこへしやがみこんだまゝヒイツヒイツて泣いとつた。見た男は足がふるへたつていふが、それあ誰でもふるへるだらう」
と、おづおづ答へた。
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