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と、房一が声をかけた。
「や、先日はどうも――」
と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。
さう云つたのは庄谷だつた。房一がその方をふり向いた時、庄谷の白味がちな小さな眼が意味ありげに更に細くなつたところだつた。そのまゝにやりとして、
「連れっ子をして行ったです。その子供がまたチブスになって、……」
練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
「せんせい!」
と、突然房一の肩を押へて云つた者がある。いつのまにか、練吉が傍に来ていたのだ。彼は酒の酔ひもさめたと見えて、興奮し、そのために稍強きつい、輪郭のはつきりした顔立ちになつて、一心に土手の方を注視していた。
「やあ、今晩は」
「いゝや、まだ」
「ドイツの潜航艇が又イギリスの商船をやつつけたさうですね。――なにしろ海の底をもぐつていて、ぽかつと出てくるんだからねえ、やられた方ぢやさぞおつたまげるだらうなあ」
「ですが、一体財産譲渡つて云ふのはいつのことなんです、大分前ぢやないですか」
と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。
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