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    のむことなら!といふ風に、練吉は切れ目をぱちぱちさせた。

    「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」

    やつと、徳次は感心した。青島陥落はついこなひだのことで、その時は徳次も提灯ちやうちん行列に出たのである。

    男は眼を閉ぢたまゝだつた。

    「はあ」

    「それは惜しかつたですな。私などとちがつて学資の心配はなかつたでせうし」

    「相沢さんも見えないな」

    「何だらう、山師を煽おだてて又一儲けしようてんだらう」

    と、いきなり云つた。

    「はあ、なるほど」

    例年の冬は仕事ができない習慣であったが、伊東へきて、仕事ができるようになった。伊東は南国だといっても、ちょッと南へ下ったというだけのことで、東京からくる人には暖かさが感じられても、住む身には分らない。仕事ができるのは温泉のせいだ。ぬるい温泉のせいである。つかっていて汗ばんでくる温度だと、温度に同化することはできないものだ。

    答へながら、房一は少からず面喰つていた。声をかけられるその瞬間まで、彼は酒造家の相沢を何となくでつぷり肥つて、木綿縞の袷あはせの袖口から肉づきのいゝ手首を喰はみ出させた、紺の前掛でもした男を想像していたのだつた。それが乗馬ズボンをはいて現れようとは――。

    間もなく房一は別れを告げ、庭前で又馬の前に立つて二三の話をし、相沢の家を立去つて行つた。相沢のやうな家を患家に持つことは、十軒もの小患家を得たに匹敵すると、ひそかに満足しながら。そして、今日のもてなし方から考へると、医者として十分好意を与へたにちがひない、といふことにも満足しながら。

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