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とにかく、それは遠い向ふで起つていることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。
房一は面喰つて、ぽかんと口を開けた。
「先代がぽつくり死にましてね。おかげでこんな所へ引つこむやうになつてしまつたんですが」
「あれは本当ですかね、相沢さんが訴訟を起したと云ふのは?」
男はその時、案外なほど寂しみのある表情を浮かべ、頬杖をついてぼんやり戸口の方に顔を向けていたが、眼だけをちよつと動かせた。だが、知らぬふりでビールを口へ持つて行つた。
職業柄人見知りなんかはしていられないし、又さういふことにかけては密ひそかに自信を持つていた房一も、少したぢたぢとなつた。そのはずみに、房一は路々考へて来た挨拶のきつかけを度忘れてしまつたほどである。
と、急に練吉が小耳にはさんで云つたのは、多分黙つて他のことを考へていたのだらう。
「連れっ子をして行ったです。その子供がまたチブスになって、……」
「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」
「お忘れかもしれませんが、高間道平の息子でございます。――今度、医者としてこの町へ戻りました者で――」
「それが、その、来ないわけがあるのさ」
「さあて、帰るかな」
「なに?」
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