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「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」
「さうです」
ほんとにさうだ、忙しい身分なんだ、どうしてそこに気がつかなかつたらう、――と、徳次は瞬間本気にさう考へ、自分のはしたなさを悔くやんでいた。
が、登り切つた所で、ふりかへつて盛子を待つた。そして、何となく様子のちがつたゆつくりさで登つて来る盛子の、上うは目になつた、意味ありげに笑つている顔を見た。
小谷はやさしみのある顔をぽつと紅らめ、いくらか饒舌になり、それと共によけいきいきいする声で話した。
「このまゝでは責任者を出さなくてはならなくなる。手落ちは向ふにあるとしてもですよ」
彼らは家の間まの一つを「商人宿」にしている。ここも按摩が住んでいるのである。この「宗さん」という按摩は浄瑠璃屋の常連の一人で、尺八も吹く。木地屋から聞こえて来る尺八は宗さんのひまでいる証拠である。
「さあ、一つ拝見しませう」
房一はその晩留置されることを覚悟していたが、幸ひに取調べは簡単に済んで、夜ふけになつて神原喜作と共に自動車で帰つて来た。この二人が本署まで同行させられたことはあらゆる方面に同情をひき起した。そして翌日になると、出張所の側でも遺憾の意を表し事件は落着した。
と云つた。
相沢は釣られて思ひ出したやうに愛想よく答へたが、その歩き出した足は家の方へではなく、馬の方に近づいて行くといきなり親しげに平手で軽く馬の首を叩いた。驚いたやうに二三度首を振つた馬は、すぐ目をつむつて、快げにその光沢のある首を伸ばしぢつと愛撫をうけた。相沢はふりかへつて房一を得意さうに眺めた。彼はさつきから、房一がこの馬に気をとられているのを、そして馬を見るときの房一の目が一種の特別な光りを帯びているのに気がついていたので、どうしてもかういふ光景を演じて見せたいといふ子供染みた欲望を押へることができなかつたのである。
「ほう、いつから」
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