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    「あ、さうでしたな。一つ診ていたゞきませう」

    かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、

    徳次は笊を差出した。

    房一がそこへ出るのと、さつきの二人が表から入つて来るのと同時だつた。

    ――だが、作者がこんな説明をしている間ぢう、房一はそこで愚図々々と立つていたわけではなかつた。何かしらあての外れたやうな気がすると同時に、房一は漠然と庄谷の気持を見抜いた。彼はそんなことで悄気しよげるやうな性質でもなかつたので、ほんの路傍の挨拶だけで別れると、さつさと上手に歩いて行つた。

    「なに?競馬のこと?」

    道平は納得したやうにうなづいたが、又ゆつくり身体を坐りなほすのと一緒に、

    よそは住宅難だが、伊東には売家も貸家も多い。伊東は海山の幸にめぐまれて食糧事情がよかったが、東京も食糧事情がよくなったので、不便を忍んで通勤していた人たちが東京へ戻りはじめたのである。

    「ジョン、そら!ウシ!」

    今度はかるく甘えた、羽毛でくすぐるやうな調子があつた。房一はざぶりと水を顔にぶつかけただけで立上つた。

    徳次はきまり悪げに、しかし、又あのきよろりとした眼つきにかへりながら云つた。

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