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今、房一の顔に現れているのはさういふ怒気だつた。ただ、それは盛子に向けられているのでなしに、房一の内部に立ちはだかり、自ら押へつけしている、それから来る圧迫感だつた。――
男は一歩下つた。
半シャツの男は房一の前に来て、はじめてお辞儀らしい格好をした。
「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。
「どうして?血はつゞいていなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」
「どうでした」
「心臓は多少弱つているが、大したことはない。――いゝかね、あんたの身体はもともと丈夫な身体だ。ようく診たがどこも悪くはない」
「何かの、それは」
房一は苦笑した。
「うん、何かア」
彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。
喜作はふりかへつた。そこへ房一も登りついた。三人は瞬間顔を見合せた。そこに、房一は自分よりは二つ三つ若い、だが禅坊主のやうな頭骨をした精悍な表情の神原喜作を見た。
「印度洋の方では、何とかいふ軍艦がたつた一隻で荒あばれまはつているんだつてね。それがちつとも捉つかまらないと云ふから面白いねえ」
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