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「これはあなたがお乗りになるので――?」
その間に、房一は駆けつけて来た駐在所の加藤巡査としやがみこんで、しきりと善後策を講じていた。傍には練吉も、神原喜作も、小谷も、それから徳次の顔まで見えた。徳次はきよろりとした眼を一層大きくし、加藤巡査と房一とが話す様子を熱心に見まもり、時々うなづき、口をもごもごさせて、何か云ひたげにしていた。加藤巡査はさつきから人々の塊りの間を説得して廻つていたが、無駄であつた。今や驚くほどの寒さが感じられたにかゝはらず、加藤巡査の顔は疲労し、汗を浮かべ、しきりに手真似を入れて話していた。明かに出張所側の手落ちだつた。が出張所の側では門を固く鎖ざし、どこかへ引きこんでしまつているので、話のつけやうがなかつた。
「やっぱり半之丞の子だったですな。瓜うり二つと言っても好よかったですから。」
心持照れ臭さげにしながらも、盛子は快活などこか家庭的な確しつかりさといつた風なものを現して、この一日造りの漁師達を眺めた。
「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」
それは、やつぱり何となく「役所」臭かつた。
練吉は小学校時分のことを思ひ出したのかふいにをかしさうに笑ひ声を立てた。
「はあ、いや。もう手前どもは老いぼれ同然ですからな」
房一はいくらかつんぼの道平の耳に口を寄せて、大声で云つた。
「一体どうしたというのだ。」
と、ちやうど追鮎箱のところへ立つて行きかけた徳次は、事もなげに云つた。彼はその水際のところでいきなりシャツをはぎとると、バシヤバシヤツと水洗ひをして、それを日に焼けた石の上に乾した。そのまゝ房一と小谷の前に来ると、美事な半裸体のまゝ腕組みをして突立つた。一種単純な、力づくといつた様子が現れていた。
房一は生返事をしてからふり向き、うなづいて見せた。彼はよく聞いてはいなかつた。
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