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    「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」

    町の一部では房一が「席を蹴立てて帰つた」といふ評判だつた。それが何か乱暴でも働いた、といふやうに伝つて、噂を聞いた老父の道平は河場からわざわざ様子を聞きに来た。

    「それに、永い間この土地をはなれていたもんですから、土地の事情にもすつかり疎うとくなりましてね、これは一つ、どうしても今後こちらのお力にすがらないことには立つていけないと思つている次第ですが――」

    相手はしばらく黙つていた。だが、場所が高いのと、柵の中にいるためか、落ちついて答へた。

    このポインタアの雑種は、房一の往診にはどこへでもついて来た。いゝ路づれだつた。

    正文は黙つて聞いていたが、このときふいに今まで前屈みに折りたゝんでいた背をぐつと伸したやうに思はれた。そして、あの噛みつくやうな眼がぎろりと房一を一瞥した。

    房一は面喰つて、ぽかんと口を開けた。

    房一は満足げに、かへつて来た犬の頭をかるくたゝいた。

    「それから、あれだが、今までよう訊かなんだが、――あれは、どうしたもんかの、大石さんの方は?」

    宿の浴衣ゆかたを着たままで行く人もあるが、行儀の好い人は衣服をあらためて行く。単に言葉の挨拶ばかりでなく、なにかの土産みやげを持参するのもある。前にもいう通り、滞在期間が長いから、大抵の客は甘納豆とか金米糖とかいうたぐいの干菓子をたずさえて来るので、それを半紙に乗せて盆の上に置き、御退屈でございましょうからといって、土産のしるしに差出すのである。

    「ねえ!」

    「もう一人後から来るかもしれませんが、そしたらよろしく頼んます」

    「このまゝでは責任者を出さなくてはならなくなる。手落ちは向ふにあるとしてもですよ」

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