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「さあね、そいつは今のところ何とも判らんでせうな。何しろこの前に手をつけたのは十年前だつたでせうかね、その時の礦石のかけらも残つちやいませんよ」
「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」
「あら、ほんとうに沢山とれたんですね」
「ふむ」
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
「それは勝手だが、あんなもの、温泉と思っちゃいかん」
盛子は時々半ば無意識に呟いた。
「さうですか、さうですか。それは、いや、ごていねいなことで」
向きなほつて云つた正文の声音は穏かではあつたが、その言葉とは不似合な強したゝかな調子があつた。
「おい、早く早く」
「ほう、クレーといふのはカワラケのことかね」
それから上着を脱ぐと、ワイシャツの袖をまくり上げて、診察にかゝつた。無造作にひよいと病人の瞼をつまみ上げ、めくつて、眼の色を調べた。半裸体のむき出しになつた腕をつかんで静かに屈伸させた。顔面の皮膚をひつ張る、足を立てさせる、今度は足の裏を見る、――それはまさに手慣れた、素速い、注意深い動作だつた。まさしく、医者といふものだつた。
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