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練吉は盃を口にふくみながら答へた。
「先生!」
房一が云ひかけると
「さうです、さうです。さつきも少し遠乗りをやりましてね。帰つて来たばかりなんです。どうしてもこの辺は馬ででもないと、用達しが不便でしてね。町へもこれで出かけます」
私はもともとヌル湯好きで、いつまでつかっても汗のでない程度が好きだ。
と、その小柄な身体から出るとはとても思へない、幅のある、濁だみ声で云つた。
「どこの帰りかね」
と、敬遠するとも小莫迦にするとも見える頭の下げ方をして、さつさと行つてしまふのであつた。
その子供染みた好奇心に輝いている横顔は、この老人の胸の奥から恐らくその年齢と調子を合せてゆつくりと流れて来る悦びのためもあつたらう。その悦びの源泉はもとより房一にあつた。
房一は鬼倉に向つて叮重ていちように云つた。
わきから又誰かが冷かした。
「いや、それが――」
房一はその時逸いち早く、横に寝かされている男の投げ出した手首に血がかすりついているのを、そして寝ながら立てている片足のズボンの膝のあたりにもどす黒い斑点の沁みているのを見てとつた。
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